波が教えてくれた話
クジラの恩返し ママに読んでほしい童話
吉藤 まさき
風もなく、海岸から、静かに波の音が聞こえてきます。
青く晴れた空には、雲ひとつありません。
そんな、ある日のことでした。
あたたかい、お日さまの光をあびながら、ポポという若いアザラシが、海岸近くを、のんびりと泳いでいました。
「今日は、魚をたくさん食べたし、あったかいし、気持ちいいな」
おやおや、これはたいへんです。
シャチたちの大きな背びれが、のんびりと泳いでいるポポに、近づいてきました。
「おい、みんな。うまそうなアザラシがいるぞ。つかまえて、食べようぜ」
アザラシを、大好物にしているシャチたちに、ポポは見つかってしまいました。
「シャチだ！。早く海岸まで逃げなくちゃ」
ポポがシャチから逃げるには、海岸から陸に上がるしかないのです。
しかし、ポポがどんなに早く泳いでも、シャチより早くは泳げません。
それでもポポは、海岸に向かって急いで逃げだしました。
シャチは、あっというまに、ポポに追いつき、かみつこうと、口を大きくあけました。
「きゃー、もーだめだ！助からない」
その時です。
ドドドドン、バシャン！
大きな音と共に、大きな水しぶきがあがりました。
シャチたちは、何がおきたのか分からず、動くのをやめました。
それは、二頭のザトウクジラが、大きなむなびれで、海面をたたいた音でした。
「ぼうや、おじさんのところへおいで」
二頭のなかの、大きい方のクジラが、優しく言いました。
ポポは、クジラのおじさんの方へ、急いで泳いで行きました。
それでも、まだシャチたちは、ポポを追いかけてきます。
「さあ、ここへ、上がりなさい」
クジラのおじさんは、そう言うと、体をくるりと回し、お腹を海の上に出しました。
ポポは、お腹に飛びのりました。
これで、もうシャチは手を出せません。
「おい、クジラ。そのアザラシは、おれたちのえものだぞ、じゃまをするな！」
シャチたちは、おこって、クジラのまわりを回りながら言いました。
「だめだ。この子は、オレたちが守る。だから、あきらめなさい」
「うるさい！そいつを、こっちへよこせ」
シャチは、クジラに突っ込んできました。 すると、もう一頭のクジラが、大きな胸びれで、シャチをたたいて、追い払いました。
それでも、シャチたちは、クジラに頭から、突っこんで、体当たりをくり返しました。
クジラのおじさんは、胸びれに、ポポをしっかりとはさんで、守りました。
しかし、シャチたちは、どうしても、クジラがポポをはなさないので、とうとうあきらめて、どこかへ行ってしまいました。
「さあ、ここなら、もうだいじょうぶ。おじさんがここにいる内に、海岸に帰りなさい」
クジラたちは、ポポが、海岸につくまで見守りました。
海岸につくと、ポポは大きな声で、おれいを言いました。
「ありがとう、おじさん！」
「それじゃあ、アザラシくん、さようなら」
クジラは、そう言うと、海の上へ大きなジャンプをして、水しぶきを上げ、海岸から遠くはなれて行きました。
ポポは、クジラが見えなくなるまで、海岸で見送りました、
それから、３年たちました。
ポポは、大きくなり、大人のアザラシになっていました。
ある日、ポポが海岸近くを泳いでいると、浅い海にのり上げて、動けなくなっている、大きなクジラを見つけました。
近づいてみると、ポポを助けてくれた、あのクジラのおじさんでした。
「おじさん、どうしてこんなことになったの？」
「やあ、アザラシくんか。浅い海で、動けなくなった子供のクジラを助けていたら、おじさんが動けなくなたんだ。このとおり、おじさんはの体はとても大きいから、もう、どうにもならないんだ」
「おじさん、僕を覚えてる。昔、おじさんに助けてもらったことがあるんだよ」
クジラは、目をとじて、考えました。
「うーん、そんなこともあったかもしれないなあ・・・・、でも、思いだせないな」
「わすれたようですね。でも、こんどは、ぼくが、おじさんを助けるばんです」
「ありがとう、アザラシくん。でも、クジラの仲間も、おじさんを助けようとしたけど、あきらめたんだ。だから、小さなきみには、とうていできないと思うよ」
「はい、でも、あきらめないでください。ぼくが、何とかして、おじさんを助けます」
ポポは、アザラシたちが、力を合わせてクジラ押せば、きっと、動くと思いました。
ポポは、いそいで、仲間たちのところへ行き、助けてくれるよう、お願いしました。
「シャチからぼくを助けてくれた、クジラのおじさんが、浅い海で動けなくなっているんです。どうか、どうかお願いです。みんなの力で、助けてもらえませんか」
ポポの話を聞いた、アザラシたちが何百頭も海岸に集まってきました。
アザラシたちは、クジラの横にならぶと、鼻や、頭や、背中をクジラの体にあてました。
「みんな、ありがとう。それじゃあ、ぼくの合図に合わせて、押してください」
「そーれ！」
ポポの声で、みんながいっせいに、クジラを押しはじめました
よいしょ、よいしょ、よいしょ
しかし、クジラは、ほとんど動きません。
わずかに、波が来るときに、波に浮いた体が少し動くだけです。
「そーれ！がんばって！」
よいしょ、よいしょ、よいしょ！
アザラシたちは、鼻がつぶれそうになるほど、頭がへこみそうになるほど、背中が曲がりそうにほど、力いっぱい押しましたが、どうしても、少ししか動きません。
「アザラシのみなさん、ほんとうに、ありがとう。もう、あきらめてください」
クジラのおじさんは、大きな胸びれを横にふりながら、すまなさそうに言いました。
「おじさん。おじさん元気を出して。ぼくが、何とかして、きっと、助けるから」
海岸の近くには、心配したクジラの仲間たちもやって来ていました。
ポポは、考えました。
（そうだ、もっと大きな波がくれば動くかもしれない）
ポポは、クジラたちのところへ行きました。
「クジラのおじさんは、小さな波で少し動きました。だから、みなさんが、大きな波をつくれば、もっと動くかもしれません。そうすれば、うまく助かるかもしれません」
「よーし、分かった。それじゃあ、みんなで、ジャンプをして、波をつくってみよう」
すると、さっそく群にいた、大きなオスクジラの三頭が、海の上へ、大きなジャンプしました。
ドドドドン！
大きな水しぶきを上げて、クジラたちが海におちると、大きな波ができ、それが、海岸に向かって近づいて行きました。
「そーれ、今だ！」
よいしょ、よいしょ、よいしょ
アザラシたちが、波に合わせて押しましたが、やはり、助けることができません。
「よーし、今度は、みんでジャンプだ」
群にいる、子供クジラも、メスクジラも十数頭が、みんないっしょに、大きく海の上へジャンプしました。
ドドドド、ドドドドドン！
今度は、みんながジャンプしたので、前より、もっと大きな波ができました。
大きな波が、おじさんの体をフワリと持ち上げました。
「そーれ、今だ！」
よいしょ、よいしょ、よいしょ
アザラシたちは、力いっぱい押しました。
すると、おじさんの体が、やっと少しずつ動き始めました。
「みんな、あともう少しです。がんばって！がんばってください」
アザラシたちは、がんばって、そのまま押し続け、浅い海から、クジラを数十メートル深い海の方へ押しだしました。
「おお、やったぞ！動ける、動けるぞ」
おじさんは、海の中で胸びれを動かし、からだの向きを変え、泳ぐことができるようになりました。
クジラの周りには、アザラシたち集まり、よろこびの声を上げました。
やった！やった！やった！
クジラの仲間も近づいてきました。
そして、クジラとアザラシは、いっしょに声を上げよろこびました。
「ありがとう、アザラシくん。ぼくたちクジラは、助けてもらったことをけっして忘れないよ。これからは、クジラとアザラシはいつまでも友達です」
波から聞いた話では、それから、ザトウクジラとアザラシはとても仲良しになり、困ったことがあると助け合うようになったそうです。
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