光の玉子
光の玉子という童話は中国電力さんのご尽力により、各営業所、本社受付に無料で
配布されている小冊子です。多数印刷されましたが現在はもう品切れと思われます。
ここに書いた作品は、中国電力さんの発刊された冊子とは少し変更された環境保護を
目的に間接的に表現したオリジナル作品です。
作 吉藤 正樹
夏の太陽が、青い空の中でギラギラとかがやいていました。
セミが、にぎやかに歌っています。
小学四年生の健太は、一人で公園を歩いていました。
すると、大きなポプラの木の下で、杖をついて座っていた、知らないおじいさんが、声をかけてきました。
「ちょっと、そこのぼく。すまないが、少し手をかしてくれんかな。そこの石ころにつまずいて、転んでひざをうってしまつたんじゃ」
健太は、とつぜん声をかけられ、少しおどろきましたが、おじいさんが困っていたので、助けてあげることにしました。
「いいよ、おじいさん」おじいさんは、健太のかたにつかまって、歩きはじめました。
その日は、とても暑かったけれど、健太は、汗をびっしょりかきながらがんばりました。
「今日は、まるで南の国のような暑さじゃなぁ。毎年暑くなっとるようじゃが、どうしてなんじゃろ」おじいさんは、ハンカチで汗をぬぐいながら、そう言いました。
おじさんは、大きな家に一人で住んでいました。
「健太君。どうもありがとう。よかったら、これからも、遊びに来てくれないかな」
「うん、いいよ」
健太は、おじいさんと、とても気が合ったので、それからよく家へ遊びに行くようになりました。
おじいさんは、日当たりのよい部屋にオウムを一羽かっていました。
そのオウムは、とてもかしこく、どんなことばも真似できるし、ときには、まるでことばを話すようにしゃべりました。
健太とオオムは、とても仲良しになりました。
健太がおじいさんの家へ行くようになり二年がたちました。健太は六年生になりました。
ある日、健太がおじいさんの家へ遊びに行くと、おじいさんは、体がすっかり弱ってしまって、ベットに横になっていました。
「どうしたの？おじいさん！」
「健太くん、どうもわしは、悪い病気になったようじゃ。これから病院に入院するが、もう、この家には、帰ってこれそうにないんじゃ」
「えっ、そんなこと言わないで、元気になってください」
「ありがとう。それより、大切なオウムを健太君にあずかつてもらいたいんじゃ」
「うん、それはいいけど・・・・・・」
「健太君は、やさしい子だからなあ。本当に、オオムをたのんだよ」
「はい、おじいさん。やくそくします」健太は、キッパリと答えました。
「それじゃあ、健太君。まだこのオウムの秘密を話していなかったが、よく聞いてくれ」
おじいさんは、おおきく息をひとつすると、話し始めました。
「このオウムは、君が知ってるとうり、とてもかしこい鳥じゃ。それは、オウムが、ただ言葉の真似をしているだけでなく、ほんとうに話せるからなんじゃ。オウムの話しでは、もう千年ちかく生きていて、長く人間にかわれているうちに、話せるようになったそうじゃ。オウムは、自分を守るため、飼い主以外とは話しをしないんじゃ。オウムには、健太君に、あずかつてもらうと話しをした。わしも、六十年前に、中国に住んでいたころ、同じようにしてあずかつたんじゃ。どうか、よろしくたのむ」
健太は、約束どうり、オウムをあずかりました。健太の家では、お父さんも、お母さんも動物がとても好きだったので、オウムを飼うことをすぐに許してくれました。
おじいさんは、言ったとうり、病院から帰ることはありませんでした。
オウムは、健太と二人きりになった時、自分がこんなに長く生きているわけを話しました。
それは、千年も前の話でした。
太陽のかがやく、暑い夏の日のことです。オウムが空高く飛んでいると、とつぜん目の前に大きな光の玉があらわれ、ぶつかって地面に落ちてしまいました。
おおけがをしたオオムに、光の玉はこう言ったそうです。
「わたしは、生命の光です。生き物の命を守るために、千年に一度、地球にやって来ます。命を守るわたしが、あなたにけがをさせてしまいました。このままでは、あなたの命が消えてしまいます。だから、あなたに、わたしの生命の光をあたえます。これであなたには、千年の命がやどるでしょう。そして、千年たったら、わたしはあなたの体からぬけだして、ふたたび生命の光になり、太陽にもどります」
光の玉はそう言いおえると、まぶしくかがやいて、オウムの体の中に入っていきました。
それからオウムは、どんなけがをしても死ぬことはなく、今まで生きてきたということでした。
健太は、オウムの話を聞くのが大好きでした。
数百年前、船長に飼われていた時、船で太平洋をわたり、アメリカ大陸に行った話。
ナポレオンが、ヨーロッパをせいふくした話。人が、はじめて気球で、空を飛んだ話。
オウムの話すいろいろな物語には、千年の生きた本当の話でした。
健太がオウムをあずかって、三年目のある日のことでした。
オウムは、命がまもなく終わることを、健太につげました。
「わたしは、まもなく玉子を産み、千年の命をおえます。わたしの生んだ玉子は、太陽の光で大きく育っていきます。どうか、この玉子がかえるまで、健太さんの手で、やさしく育ててください」
オウムは、小さな玉子を生むと、長い命をおえて、死んでしまいました。
健太は、玉子を日のよく当たるところへ置き、大切に育てていきました。
玉子は、太陽の光をあびると、少しずつ大きくなり、一年の間に、両手でかかえるほどの大きさに育ちました。
太陽の光がとてもまぶしい、夏の日のことでした。
健太は、いつものように、玉子を持ち上げて、日当たりのいい場所へ運んでいました。すると、急に玉子が軽くなり、どんどん大きくなりながら浮き上がり、またたくまに何十倍のおおきさになって、空中に浮かんで止まりました。
「健太さん。玉子から少しはなれてください」
玉子から、言葉が伝わってきました。
健太は、おどろいて、玉子から少しはなれました。
玉子に小さなひびがはいり、中からまぶしい光がもれてきました。そして、玉子が割れると、目の前がまぶしい光で真っ白になり、その光の中から、赤く光る大きな鳥があらわれました。
「わたしは、生命の光です。健太さん、わたしを育ててくれてありがとう」
光の鳥は、やさしく健太にほほえみました。
「健太さん。どうやら人間は、千年の間にずいぶん地球を汚したようですね。今、地球のたくさんの生き物たちから、助けを求める声が聞こえてきました。わたしは、あなたに育てていただいたお礼と、地球の生き物たちのために、汚れた地球を、千年前のきれいな星にもどしてきましょう」
光の鳥が、ゆっくりと羽ばたくと、体からまぶしい光が広がっていきました。
そして、もう一度大きくはばたくと、またたくまに、地球のすべての場所を飛び抜けました。それはまるで、地球全体が、やさしい光で包みこまれ、強くかがやいたように見えました。
生命の光は、汚れた空気、汚れた水、海のヘドロ、オゾン層の穴、すべてを千年前のきれいな星にもどしました。
しばらくすると、生命の光が、健太の前にもどって来ました。
「わたしは、鳥のすがたでよみがえりましたが、間もなく、もとの光の玉にもどって太陽にもどります。健太さん、本当にやさしい心をありがとう。千年後の地球が、あなたのようなやさしい心の人間でいっぱいの、美しい星であることを祈っています。それでは、さようなら」
生命の光は、そう言いおわると、光の玉になり、空の上に飛び去って行きました。
人間たちは、どうしてとつぜん、地球がきれいになったのか、不思議に思いました。
でも健太は、だれにもそのわけを話すことはありませんでした。
おわり